UnitedXR Europe 2025で感じた、ヨーロッパから見たXR
こんにちは。サービシンクR&Dの藤原です。
12月8日(月)から10日(水)にかけて、ベルギーのブリュッセルで開催されたUnitedXR Europe 2025に参加してきました。
UnitedXRは、XRそのものを派手に見せるような展示会というよりは、XRが社会や産業、文化の中でどう位置づけられていくのかを考えるためのカンファレンスに近いイベントでした。プロダクトの発表よりも、使われ方や前提条件、価値観といった話題が多く、全体的に落ち着いた空気感がありました。
このイベントはもともと、「AWE Europe」とベルギー発の没入型コンテンツのイベントである「Stereopsia」の流れを汲んで生まれたものです。AWEが持っていた産業・ビジネス寄りの視点と、Stereopsiaが培ってきた文化や表現の文脈が合流し、UnitedXRとして再編された、という背景があります。実際に参加してみても、その両方の要素が随所に感じられる構成でした。
0日目
昨年までパスポートを持っていなかった私にとって、今回は初のヨーロッパ遠征でした。今年の1月と6月にアメリカのイベントへ参加した際も「ずいぶん遠いな」と感じましたが、今回はそれを上回る移動距離で、フライト時間だけでもおよそ15時間に及びました。
日本を土曜日の深夜に出発し、まずはフランスのシャルル・ド・ゴール空港へ到着。そこからは飛行機ではなく電車に乗り換え、約2時間かけてブリュッセルへ向かいます。フランスに着いてから次が電車移動になることを直前まで把握していなかったこともあり、チェックインカウンターがすぐに見つからず少し戸惑いましたが、結果的には大きなトラブルもなく乗車することができました。
電車移動の途中、停車駅で突然照明が落ちたり20〜30分ほど列車が動かなくなる場面もありました。何かトラブルが起きたのかと少し不安になりましたが、フランス語と英語(フランス語訛り)によるアナウンスはほとんど聞き取れず、状況を正確に把握することはできませんでした。結果的にはそのまま再出発し、大事には至らなかったのですが、「海外に来たな」と実感する出来事でした。
日本を出発してからおよそ20時間、ブリュッセルのホテルに到着したのは日曜日の夕方16時頃。移動だけでかなりの時間を使ったこともあり、この日は無理をせず、会場の下見を兼ねた散歩と入場バッジの受け取りだけを済ませてホテルに戻りました。
夕食はホテルの近くにあるコーカサス料理のお店へ。シュクメルリなどを食べました。以前、松屋が期間限定で提供していた際に食べそびれて以来ずっと気になっていた料理でしたが、にんにくがしっかり効いていて、とても美味しかったです。
1日目
翌日はホテルで朝食を済ませ、9時頃に会場へ入りました。
以前参加したAWEもそうでしたが、UnitedXRはCESのような大規模展示会とは少し性格が異なります。製品展示のブースはそれほど広くなく、その代わりにメインホールや複数の部屋を使って、ステージやパネルディスカッションが数多く並行して行われていました。
私は基本的にメインステージに腰を据え、気になるトラックが別の部屋で行われている場合のみ移動して、隙間時間に展示ブースを見て回る、といったスタイルで参加しました。
Welcome Keynote: European XR Ecosystem / Welcome Global Keynote: The State of XR with Ori Inbar
オープニングのキーノートは、今夏のアメリカAWEでの内容とほぼ同じ構成でした。
XRデバイスは完璧ではないものの、「高望みをしなければ十分に使える」レベルまで成熟してきており、用途次第ではすでにメインストリームに入りつつあること。そして、生成AIの進化においてXRは不可欠な存在であり、AIがXRデバイスを通して現実世界の情報を学習できるようになることで、AIの成長が加速している今は、XRにとっても大きな追い風になっている、という内容でした。
XRが未来の技術として語られる段階を越え、「すでに使われ始めているもの」として位置づけられていた点が印象的でした。
Virtual Worlds and Web4.0 EU Strategy: The Road So Far and the Road Ahead
オープニングの次に視聴したのは、EUの戦略として語られる「仮想世界」とWeb4.0に関するセッションです。
タイトルを見て日本で一般的に言われるWeb3(ブロックチェーン)の先の話を想像していましたが、実際には少し異なる文脈で語られていました。
2Dの画面を中心としたWeb2.0、3Dコンテンツやデジタルツインによって体験が拡張されたWeb3.0を経て、生成AIやリアルタイムデータを活用し、XRデバイスを通じて現実世界と仮想世界がシームレスにつながる社会設計をWeb4.0と呼んでいる、という説明です。
興味深かったのは、この話が技術トレンドの紹介に留まらず、最初から「社会にどう組み込むか」「どのような価値観やルールのもとで運用するか」という視点とセットで語られていた点です。プライバシーや権利保護、多言語、多文化への対応といった課題を、後付けではなく前提条件として扱う姿勢は、いかにもEUらしいと感じました。
PANEL: Implementation of Virtual World Standards: Who Benefits?
続いてこちらも、ヨーロッパらしさを感じさせる標準化をテーマにしたパネルディスカッションです。
議論は「標準化によって誰が利益を得るのか」という問いから始まり、大企業、中小企業、研究者、政策立案者といったさまざまな立場の登壇者が、それぞれの視点から標準化の意味を語っていました。
標準化はイノベーションを止めるものではなく、業界全体で課題や摩擦が顕在化したときに、それを減らすために必要になるものだ、という考え方が共有されていました。また、「標準化団体が研究開発を主導すべきではない」という意見もあり、まず現場で技術が使われ、問題が明確になった段階で標準化が進むべきだ、という指摘も印象に残っています。
2日目
PANEL: Inspiring XR Use Cases in Industry
このパネルで印象に残ったのが、Airbusによる産業ユースケースの紹介です。航空機の設計や製造といった領域でXRを利用する実例はこれまで何度か見てきましたが、ここで語られたのは機体や機内に設置されているサインやラベルの点検作業についてでした。航空機には非常に多くの警告表示や案内ラベルがあり、その内容や配置は厳密に定められています。登壇者によると、たった一枚ラベルが欠けているだけでも機体はAOG(Aircraft on Ground)状態となり、運航できなくなる可能性があるそうです。
そのため仕様書やカタログを参照しながら実機を確認する必要があるのですが、作業には時間がかかり、見落としのリスクもありました。そこでAirbusではMRを活用し、正しいラベル情報を3Dで表示しながら、実際の機体と照合できる仕組みを導入しているそうです。
この方法によって、修正にかかる時間を約40%削減し、タスク完了率を約50%向上させることができたという説明がありました。XRを使って新しい体験を作るというよりも、現場で日常的に行われている地味で重要な作業を、確実に改善している点がとても印象的でした。
Reflective Polymer 2D Waveguide Technology / Unlocking True Holographic Displays for the AI + AR Computing Era
2日目は、メインステージを離れてARグラスの光学系を扱う別トラックのセッションも聴きに行きました。
ARグラスでは、透明性、視線が動いても破綻しないアイボックス、色ムラのなさ、十分な明るさと効率、バッテリー制約、重量、視野角、見た目といった様々な条件を同時に満たす必要があります。どれか一つなら成立しても、すべてを揃えようとすると必ずトレードオフが出てくる。いま市場にあるARグラスが「重くて高い」方向に寄りがちな理由がわかりました。
ウェーブガイドを使う方式では、効率や色再現だけでなく、量産時の精度要求が大きな壁になる。試作レベルでは成立しても、低コストで大量生産しようとすると一気に難易度が跳ね上がる。そのため、素材や構造の選択は性能だけでなく、製造プロセスそのものと切り離せない問題になっている、という話が印象的でした。
別のアプローチでも、人間の視覚と自然に噛み合う表示を実現しようとすると、結局は光の制御、消費電力、実装の複雑さといった同じ課題に行き着くようで、レンズ開発の難しさを感じました。
イベント2日目の後
この日はUnitedXRの会場を出たあと、The Grand Placeというブリュッセルの名所が歩いて行ける距離にあると知り、せっかくなので足を延ばしてみることにしました。
道中には、クリスマスマーケットの出店がいくつも並んでいて、街全体がすっかりクリスマスの雰囲気でした。食べ物や工芸品を売る小さなスタンドがどこまでも連なっている光景は、いかにもヨーロッパの冬という感じがしました。
歩いている途中で日本に関連するお店をいくつか見つけられたのも印象的でした。ラーメン屋や和菓子のお店があるのは想像の範囲内でしたが、盆栽専門店まであったのには少し驚きました。思っている以上に日本文化が日常の中に溶け込んでいるのかもしれません。
目的地のThe Grand Placeは、言葉にするのが難しいほど美しい場所でした。歴史を感じさせる建物にぐるりと囲まれる体験は、それだけで特別なものがあります。こうした景色はVRで見ても十分に感動できると思いますが、やはり現地の空気や音、人の気配を含めて体で感じる体験は別物だなと改めて感じました。
そう考えると、私たちがXRの中でも特に関心を持っているのがVRよりも現実世界に情報を重ねるARである理由も、現実そのものの価値を置き換えるのではなく、現実世界の上に情報を足して体験を豊かにする未来を求めているのだと、改めて認識できた気がします。
3日目
Cultural Institution Reimagined
3日目に参加したセッションの一つが、文化施設とXRをテーマにしたパネルディスカッションです。
ここで印象に残ったのは、テクノロジーを積極的に取り入れる一方で、美術館や文化施設を「テクノロジーから切り離された場所」として楽しみに来ている来場者も確実に存在するという内容です。常に情報を与えることが正解ではなく、あえて解説を減らし、感覚や感情に委ねる体験を設計することも重要だ、という話には強く納得しました。
XRは体験を拡張するための選択肢の一つであって、万能な答えではない。その距離感を保った議論が、このセッション全体を通して印象的でした。
The Rise and Challenges of AI Glasses
もう一つ興味深かったのが、AIグラスの現状と課題を整理するセッションです。
見た目はほぼ普通のメガネで、軽量かつ安価、スマートフォンと接続して使うAIグラスは、XRがこれまで届かなかった層に入り込める可能性を持っている、という話がされていました。一方で、カメラやマイクのついた眼鏡を常時身につけることへの社会的受容性やプライバシーの問題は避けて通れず、技術そのものよりも「理解される設計」が重要になる、という指摘が印象に残りました。
この話は個人がカメラを持ち歩くようになった時代とも重ねて説明されていました。いまでは当たり前に見える変化ですが、当時も最初からすんなり受け入れられたわけではなく、距離感や暗黙のルールが少しずつ形づくられていった。スマートグラスも、まずはそのプロセスを通る必要がある、という見方です。
また、日常的に身につけるプロダクトである以上、サイズや装着感、処方レンズへの対応など、光学やファッションの視点が不可欠であり、テック企業単独では成立しない、という現実的な話も多く語られていました。
イベントを振り返って
全体を通して感じたのは、開催地がヨーロッパということもあって、プライバシーやアイデンティティの保護、教育、アクセシビリティ、サステナビリティといったテーマがごく自然に前提として扱われていた点です。同じXRイベントでも、アメリカで開催されるAWEとは話題の切り取り方や会場の空気感がかなり違っていました。
個人的には、多くの企業がXRの未来を語る中で、Niantic Spatialの描く方向性がいちばんわかりやすく、実際に便利な世界に近いと感じました。AIが現実世界や空間から学び、それをXRを通してユーザーに返していく。2Dの画面内に閉じた体験ではなく、現実そのものを理解したうえで広がっていくXRを最も活かせるのは、地理や空間に強みを持つNiantic Spatialのような組織なのかもしれません。
3日目の夜と帰国
3日目の夜は、ムール貝やエスカルゴ、ポテトのフライなど、ブリュッセルらしい料理をいくつか食べました。
ムール貝はこの日だけで一生分は食べたと思います。2人で「もうこれ以上は無理だね」と言いながら鍋ひとつ分を食べ切ったのですが、近くのテーブルでは4人で一人ひと鍋ずつ頼んでいるのを見て、思わず笑ってしまいました。
翌4日目は、昼過ぎまでブリュッセルの街を少し散策してから空港へ向かいました。今回のイベントは、会場の周りに飲食店や観光地が多かったのもありますが、ただ街を歩いているだけでも歴史を感じられるのがとても良かったです。
来年もブリュッセルでUnitedXRを開催するそうなので、またヨーロッパから見たXRの空気感をキャッチアップできたらと思います。
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