2025年度のAWEを世界中で見てきて確認したWeb視点で読み解いたARの現在地
サービシンクの名村です。サービシンクではXR領域の研究開発(R&D)を2024年から続けています。さらにその活動の前身となるのは私が20218年に書いたブログ「サービシンクの考える「スマートフォンの終焉と次のデジタル体験」の未来予測」が元になっています。
その活動の中で、2025年は海外視察を積極的に行ってきました。特にAWE(Augmented World Expo)はXR関連では世界最大のカンファレンスで、1年を通して「アメリカ」「欧州」「アジア」の3大エリアで開催されます。
サービシンクでは2025年全てに参加し2026年2月、シンガポールで開催されたのが2025年度の最終となります。
「AWE Asia2026」の様子はR&D担当の藤原より「AWE Asia 2026 シンガポールで考えたXRのこれから」でご紹介をしていますので、そちらもぜひ一読下さい。
その上で、私は今回の年度総括的なことを書かせていただきます。

AWEカンファレンスを「技術トレンド」ではなく「設計条件の変化」として読み直す
今回、シンガポールで開催されたXRカンファレンス「AWR asia 2026」に現地参加し、AR、Smart Glasses、空間UI、生成AIなど、さまざまなセッションを横断的に聴講してきました。
テーマは多岐にわたり、一見すると「XRの最前線」を紹介するイベントのようにも見えます。強く印象に残ったのは、多くのセッションが「新しい体験をどう作るか」よりも、「これまで当たり前だと思っていた設計前提が、どこで破綻し始めているか」に多くの時間を割いていた点です。
その点では単なる「最新情報の発表会」という訳ではなく、問題提起も数多くされていましたし、目新しい体験ではなく実際の運用を見越したステージに「XR」が進みつつあるといえます。
XR業界におけるハードウェアは確実に進化しています。
それは今年1月にアメリカで開催された「CES2026」でも痛感しています。(※CES2026におけるスマートグラス界隈の視察レポートは「CES 2026で見たスマートグラスの現在地」をご覧ください)

Metaの大本命ARデバイス「Orion」
すでの多くの方がご存知の通り「Meta Ray-Ban」で採用された手首のバンド型の「Meta Neural Band」、Even Realitiesの「Even G2」で採用された「R1」という製品名の指輪型、と入力方式も増え、生成AIによってコンテンツなどの制作スピードも飛躍的に向上しました。
それにもかかわらず、会場全体を覆っていた空気は「自由度が増えた」という楽観的なものでなく、何をどの様に「守るべき制約が明確になった」という、非常に現実的なトーンでした。
それはやはり2025年12月にベルギーで開催された「UnitedXR Europe 2025」でも近しいものを感じました。(※UnitedXR Europe 2025の視察レポートは「UnitedXR Europe 2025で感じた、ヨーロッパから見たXR」をご覧ください)
このブログでは、「AWE asia 2026」におけるセッションで見聞きした、
- 製品発表のまとめ
- 技術トレンドの整理
- ユースケース集
として紹介することを目的としていません。
そうではなく、我々Web制作会社であるサービシンクが、今後の「Webのコンテンツの表現場所の変遷先」として位置づけている「AR空間」、そのARが現実の利用に耐えるために、設計者が何を諦め、何を削り、何を前提に置き始めているのかを、現地参加で得られた一次情報に基づいて整理することを目的としています。
- ハードウェアが「体験を拡張する存在」ではなくなった理由
- なぜハードウェア依存のAR体験がスケールしないのか
- ARが「情報アクセスの再設計」として使われ始めている実態
- Web的な構造が結果として有効になっている背景
- WidgetsやUI/UXが突きつける設計上の難しさ
といった点を、設計・実装・運用の摩擦点という視点から、現状におけるARを含めたグローバルのXR業界がどの様に取り上げているのかをまとめたいとおもいます。
また、視点として広く「イベントの総花的なまとめ」ではなく、あくまで弊社の目指す方向性、つまる「Web制作とARの融合」という観点でのまとめとなっています。
AWE asia 2026について
「AUGMENTED WORLD EXPO ASIA」の略として「AWE asia」があります。
https://www.aweasia.com/
2025年度開催の「AWE」のイベント一覧
- AWE USA 2025
- UnitedXR Europe 2025(2025年より「AWE EU」XR分野の国際フォーラム「Stereopsia Europe」と統合し、新たなイベント「United XR Europe」として開催になりました)
- AWE asia 2026
直近で行ってきたAWE Asiaの開催場所は「シンガポール・エキスポ」で、会期は2026年2月3日〜2026年2月5日の3日間、ただし初日は「Opening Reception」だけでしたので、カンファレンスとしては実質2日間でした。
朝9時〜夕方17時まで全3会場で代わる代わる様々なカンファレンスが行われています。

サービシンクではR&D担当の藤原と代表の名村の二名で参加し、合計30セッションほど見てきました。当然ながら全て英語でのプレゼンテーションですし、同時通訳などは入りませんので、その意味では日本人にはハードルが高いイベントかもしれません。
それでも参加をしているのは、やはり「一次情報」を得ることと、現地の人と可能であればコミュニケーションを取ることを目的としています。またExhibitionとして「ハードウェア・ソフトウェア」のリアルな展示もあるので、これはやはり現地にいって参加しないことには得られない体験です。実際「Snapchat」が出している「Spectacles」を実際に触って体験できるのはこういったイベントならではだと思います。
ハードウェアの進化は「体験を拡張する装置」ではなく「設計に制約を与える前提条件」になった
今回の「AWE asia 2026」を通して明確だったのは、ハードウェアの進化が、もはや「体験を派手にするための主役」として語られていない、という点でした。
むしろ一貫して示されていたのは、ハードウェアは体験の自由度を広げる存在ではなく、設計側が必ず守らなければならない制約条件の集合になりつつある、と感じました。目新しい体験を提供する一発屋的なものではなく、今後現実的な利用に繋がえていく上で、その制約条件をどの様にクリアするのか、という方向に進み始めています。
これは各ハードウェアのスペックや性能の話ではありません。
ハードウェア的な観点でいえば、2026年1月に「CES2026」に参加し、そこで多くのハードウェアを見てきました。そこで感じたのも、もはやスマートグラスはCESですら「全く新しい技術が生まれた」のを見るのではなく、「一定のできることは出揃い、それを一般プロダクトに落とし込むためのブラッシュアップをしていく」段階にあるということです。
2026年時点でいえば、Metaの「Meta Ray-Ban」や「Even Realitys」の「Even G1/R1」なども、それは今後の良い製品のためのロードマップ上の製品にすぎないと感じます。行ってしまえば2年〜3年後に一般の人が利用ができる、利用する製品の「プロトタイプ」といえるのではないでしょうか。
「AWE asia 2026」に話を戻すと、どのセッションでも繰り返し現れていたのは「何ができるか」ではなく、「何をやらせないか」という設計判断でした。
視界を占有しない、という前提
Smart GlassesやウェアラブルAIを前提とした環境では、「情報を常に表示し続ける」こと自体が問題として扱われています。
フルスクリーン表示は前提にできず、常時表示は疲労や注意散漫を引き起こす。視界に情報が出ている時間が長いほど、体験価値が下がるケースもある、という認識が共有されていました。
弊社では多くのスマートグラスを可能な限り入手するようにしていますが、メガネ型という意味で令和8年2月16日時点での最高峰は「Even Realities」の「Even G2」だと考えています。これは緑一色のデジタル表示ですが、それでも常時表示となるとやはり情報処理不可は相当高くなります。その点でいえば「Even G2」も表示のオンオフは頭のチルトや指輪型コントローラー「Even R1」で制御しやすくしています。同様に「Meta Ray-Ban」でも腕輪型のコントローラーをつけて親指と中指のダブルタップで画面のオンオフが出来るようになっています。
つまり画面表示は、「短時間」「断続的」「必要な瞬間だけ」であることが、UXの好みではなく「設計要件」として語られていました。
これは、「表示できる量が増えたから情報を増やす」という従来の発想が、AR/Smart Glassesでは成立しないことを意味します。
当初私は「PCは持ち歩けない」「スマートフォンは画面サイズが大きくできない(大きくするとタブレットが存在し、また持ち運びに利便性が低下する)」ことから、巨大なスクリーンとして扱える「空間=AR」にデジタル表現の場は移行すると考えていました。
しかし、常に視界に存在できてしまうが故に、単純に「表示を増やす」のではなく「どのように見せて、見せないか」を考える必要がある、ということです。
操作を前提にしない、という設計判断
同様に重要なのが、人による「操作」を前提にしないという考え方です。
スマートグラスでの操作体系には「音声」「視線」「ジェスチャー」「近接操作」「ウェアラブル入力」など、入力方式自体は増えていますが、それらは共通して高精度ではなく、連続操作に向かず、誤操作が起きやすいという制約を持っています。
その結果、UI設計においては「小さな操作対象を置かない」「正確な位置指定を要求しない」「多段階の操作フローを作らない」といった判断が、「推奨」ではなく前提条件として扱われていました。
ハードウェアの進化は、「新しい操作ができるようになった」ことよりも「従来の操作前提が使えなくなった」ことを設計側に突きつけています。
これは今後、WebサイトをAR空間に表示させるようになってきた時に、これまでとは全く違うUI設計思想が求められることを示唆しています。
アクセシビリティは“思想”ではなく“失敗回避の条件”
印象的だったのは、「アクセシビリティ」が理念として語られていなかった点です。
アクセシビリティは一般的な理解である「高齢者向け」「障害者向け」といった文脈ではなく、健常者がARデバイスを利用する上で「失敗しやすい体験を避けるための設計条件」として扱われていました。
視認性を高める、情報量を減らす、操作回数を減らす。
これらは「優しさ」の話ではなく、操作に失敗する、理解できずに立ち止まる、体験が中断されるといったユーザー体験上の破綻を防ぐための、極めて現実的な判断であり、必須条件となってきます。
ですが、この考え方は、WCAGやウェブアクセシヴィリティJIS企画(JIS X 8341)などで「Webアクセシビリティ」に対して長年本質的に議論されてきた「認知負荷を下げる」「迷わせない」「操作を簡単にする」という設計原則と、構造的に一致しています。
なぜハードウェア依存のAR体験はスケールしないのか
AWE Asiaのセッションでは「ARミラー」や「イベント型AR」「「車両・都市スケールのAR構想(デジタルツイン)」など、ARの利用の成果が報告されている事例は確かに存在します。
しかし、今回のカンファレンスで示されていた一次情報を精査すると、それらの成功は再現性や拡張性を前提としたものではないことが見えてきます。
問題はARそのものの表現力や完成度ではありません。問題は現状では成立条件が構造的に限定されている点にあります。
成功している事例ほど、利用場所が固定され、目的が単純で、体験時間が短く、再訪を前提としていません。
その条件下では、UIの粗さや認識精度の揺らぎ、入力の不安定さは表面化しづらいといえます。つまり成功事例とは「問題が起きにくい条件・文脈を先に作っている」ケースだといえます。
しかし同じ体験を、日常的に使わせる、何度も呼び出させる、業務や生活の一部に組み込むという前提に置き換えた瞬間、設計上の欠陥が顕在化してきます。
操作が一手多い、反応が一瞬遅れる、認識が外れることがある、情報量の調整が難しい。
これらは単発体験では許容されますが、日常利用では即座に「使われなくなる理由」になります。
また、車窓ARや都市スケールARのような未来構想型のARも、技術的な魅力とは裏腹に、コンテンツ更新の責任、表示内容の正確性、環境変化への追従、利用者ごとの文脈差といったコンテンツ単体の設計以前の問題を抱えています。
これらは技術が進めば自然に解決する問題ではなく、情報設計と運用設計の問題です。
ただ、ARのコンテンツは一般の人にはそれほど目立たない局所的な箇所での利用という経験を経て徐々に「それが一般的に使われるにはどうしたらいいのか?」というステージに進んできたともいえると思います。
ARは「表現を変える技術」ではなく「情報アクセスの構造を組み替える技術」になりつつある
今回のカンファレンスで繰り返し示されていたのは、ARがもはや「3Dで見せる」「空間に重ねる」といった表現の話だけでは成立しなくなっているという事実でした。

多くの実用事例でARが担っている役割は、情報の見せ方を変えることではありません。
情報への到達経路そのものを組み替えることです。
象徴的なのが、マニュアルやガイド系のAR活用です。
従来は検索窓を探し、キーワードを入力し、結果一覧から選び、ページを読むという「探索/検索」行為が前提でした。
一方、ARを用いた事例では、「カメラを向けて対象物を認識する」という行為自体がそのまま検索とナビゲーションを兼ねています。

このフローではユーザーに「探す」「選ぶ」「読む」という操作をさせていません。
情報は、状況と対象を手がかりに自動的に引き出されます。これはUIの変更ではなく、情報アクセス構造の変更です。これまでの「言語」による「検索」という仕組みがARの世界になり、「カメラを搭載したARデバイス」を日常的に使うことにより、リーチする手段が大きく変わります。その時、「Web」という媒体ではどの様な検索であり、到達してもらう「Webサイト」側ではどの様な情報をWebサーバーに公開する必要性が出てくるのかが今後の争点になってくると思います。
なぜWebコンテンツは、AR時代においても有効であり続けるのか
カンファレンス全体を通して、「Webを使うべきだ」「WebとARを統合すべきだ」という主張が前面に出ることはほとんどありませんでした。
これはWeb制作を生業にしている私にとってはさみしいものでしたが、カンファレンスで提示されていた設計前提や実装構造の話題を整理すると、結果としてWebが長年前提としてきた考え方と重なる領域が数多く、情報の更新性を考えた時に「Webの技術」に到着するのでは?と思っています。
AR体験は、一度作って終わりでは成立しません。利用環境が変わり、入力方式が変わり、表示条件も変わる。生成AIによって制作速度が上がったことで、「作り直す」「差し替える」「組み替える」ことが前提になっています。
これはAR特有の発想ではなく、Webが最初から向き合ってきた運用構造と一致しています。逆にいえばARの世界はまだ「特定の要素に特化したアプリ」でやっと動く世界であり、古い例をだすならば「ワープロが単体として成立していた時代」とも言えるのではないかと思います。それが汎用的なパソコン上にワープロソフトに代替され、Google DocsのようなWebベースのアプリに変化していく過渡期の草創期にあると感じます。
その意味でも前述した通り「Web構築における情報設計とUI/ユーザー体験設計」という上流設計ができる人は今後も大きくアドバンテージがあると思います。
WidgetsはUIの話ではない ― AR時代における「体験単位」の設計と寿命管理
セッションで「Widgets」という概念にフューチャーしたものもありました。これは単なるUI部品の切り出しの話ではありません。現状で求められるXRにおける体験をどの大きさで切り出し、どのくらいのそれをXR空間に時間存在させ、どう消すかという、体験の寿命設計の問題といえると思います。
現状ではAR体験は視界を覆いすぎると利用しづらいということ観点からも「大きすぎる」と失敗します。表示時間が長くなり、操作が増え、文脈が変わったときに邪魔になるからです。

実際AWE AsiaのExhibitionで見ることができたあるスマートグラスレンズメーカーの製品はフルHD(Full HD/フルハイビジョン)の解像度があり、画面の解像度が1920×1080ピクセル、目にした感覚は眼の前の8割がモニターでした。発色も明るかったですし、高密度でした。しかし「これだともう前が何も見えなくなるな…」とも思いました。
そのため現時点ではAR体験では、単一目的・短時間・状況依存という条件を満たす必要があります。Widgetsは、情報の塊ではなく状態の断片を提示し、ユーザーの判断を一段だけ前に進める設計です。
すべてを表示しない代わりに、必要なときにだけ深掘りさせる。この多層構造が、AR体験を現実の利用環境に耐えさせています。しかしこれもまた過渡期であり、現状では日進月歩でその体験における「現状の人が使える限界点」を多くの人が模索している状態といえます。
UI/UXは「どう見せるか」ではなく「どんな入力制約の下で成立させるか」の問題になった
ARやSmart GlassesのUI/UXを考える際、最大の前提条件は、入力が信用できない環境で体験を成立させることです。
入力方式は増えましたが、精度は一定のところから上がっているとはいえません。視線は固定されず、手は揺れ、入力距離も変わる。そのため、2D UIで成立していた前提条件はARでは失われています。
サービシンクでも「ARは入力方法がボトルネックになる」と予想しています。Meta Ray-Banはバンド型「Meta Neural Band」で英語の手入力を可能にしました。しかしどう考えても空間に手書きで漢字を書いてそれを認識できるとは思えません。(中国の漢字などは更に無理と思います…「𰻞𰻞麺」などは特に(笑))
結果としてUI/UXは人に「操作させる」方向から、ハードウェア/ソフトウェア側で「理解を支援する」方向へ移行していますし、今後も一層そうなると思います。
UIを減らすことは美学ではなく、失敗回避のための設計判断です。
ARは「新しい体験」を作る技術ではなく「設計の難易度を一段引き上げる環境」になった
ここまで整理してきた内容から見えてきたのは、ARやSmart Glassesが、設計者にとって自由度の高い新領域になっているわけではない、という現実です。
むしろARは、視界が使えない、入力が信用できない、文脈が常に変化する、更新・運用が前提になるという条件を一気に突きつける、設計難易度の高い環境として立ち上がっています。
その結果、派手な表現や没入体験よりも、体験を小さく切り、情報を減らし、操作をさせず、状況判断をシステム側が引き受けるといった、地味だが破綻しにくい設計判断が選ばれ始めています。ただこれもまた過渡期の一過性の動きであるので、5年後ぐらいにはハードウェアの進化とともに大きくUI設計の考え方は変わっていると思います。また「文脈が常に変化する」という部分は今後のAI時代においては我々Web制作者がコンテンツメイクをする上で常々思案してきたことでもあり、ここに一つの可能性があると思っています。

ARは、新しい世界を作る技術ではありません。
設計対象が増え、設計の責任が重くなったといえます。
その現実にどう向き合うかが、これからのARコンテンツ、そしてWebを含むデジタル体験全体の質を決めていくことになるはずです。
今後もサービシンクでは「Web×AR」の可能性について研究を続けていき、ブログでの発表を続けていきたいと思いますので、ぜひともウォッチいただければと思います。
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