2025年のAWE USAとWWDCが見せた、未来の空間Webをかたちづくる二つのアプローチ
こんにちは。サービシンクR&Dの藤原です。先月、AWE USA 2025とAppleのWWDC 2025という二つの大きなイベントが開かれました。どちらもXRに関する注目すべき発表が多くありましたが、なかでもWebに関しては二つの進化の方向が見えてきたと感じています。
一つは空間コンピューティングに合わせてWebそのものを再構成する方向。もう一つは既存のWeb技術をベースに空間性を少しずつ取り入れていく拡張的なアプローチです。これらはスマートグラスやAIの進化とも深く関係していると考えています。
AWE USA 2025:スマートグラスと空間Webの新たな試み
AWE 2025で特に印象に残ったのは、1月のCES 2025に続きディスプレイを持たない“AIグラス”が確かな存在感を見せていたことです。Ray-Ban Metaに代表されるAIグラスは、普通のメガネのような見た目でありながらカメラやマイク、スピーカーを内蔵しています。音声でAIとやり取りしながら情報を取得できる仕組みです。
見た目にはARやVRのような視覚体験を伴わないため、XRの展示会でどう評価されるのか少し気になっていました。ところが実際には、軽量スマートグラスの一つの形として自然に受け入れられていました。装着者が見ているものや声に反応してAIが応えるという意味では、これも一つの拡張現実と言えるのかもしれません。
「ディスプレイがないならメガネ型である必要はあるのか」と考えたこともありましたが、ユーザーの視線を通じて状況を把握できるという点では、この形状にも意味があります。
AIグラスは日常的にかけられるデザインで、スマートフォンと連携しながら軽やかな情報体験を提供します。ディスプレイがない分バッテリーの持ちもよく、重さも抑えられます。こうした点から、スマートグラス普及の入り口として現実的な立ち位置にあると感じました。
一方でディスプレイを備えたスマートグラスには、二つの流れがあるように思います。一つはメガネ型デバイスにAIや表示機能を少しずつ加えていくアプローチ。もう一つは、ゴーグル型のHMDをできるだけ小さくしてメガネのサイズに近づける方向です。
この後者のアプローチを象徴するのがMetaの「Orion」プロトタイプです。Orionは演算処理を外部のコンピュートパックに分担し、操作にはEMG(筋電位)バンドを使う構成で本体の軽量化と高機能の両立を狙っています。スマートグラスをスマートフォンの周辺機器としてではなく、独立した情報端末として位置づける試みといえるでしょう。
もちろん、すべてのHMDメーカーが軽量化を目指していることは間違いありません。ただ、ARグラスとVRゴーグルは別物です。360度を覆うVRの没入体験は、メガネ型デバイスでは再現できません。
XREALのようにスマートフォンと接続して映像を表示するグラスも引き続き注目されています。映画やゲームなどのエンタメを楽しむ携帯ディスプレイとして使われており、スマートグラス普及に向けた別の道筋といえます。
そして今回のAWEで、個人的に特に注目したのが「WebSpatial」という技術でした。ハードウェアの話題とは少し異なり、Webが空間コンピューティング時代にどう対応するかというテーマに関わるものです。私たちR&Dチームが取り組んでいる「Web×XR」にも深くつながります。

webspatial.devより
従来のWebは平面画面を前提として設計されてきましたが、スマートグラスの普及を見据えると情報の構造も空間に合わせて見直していく必要があります。WebSpatialはまさにそれを実現するための具体的な取り組みです。
HTMLやCSS、JavaScriptで構成された既存のWebサイトを要素ごとに分けて3D空間上に再配置するオープンソースのフレームワークで、要素をカード状にして並べたり、複数のWebアプリを同時に展開するといった使い方もできます。
単にブラウザのウィンドウをそのまま空間に貼るのではなく、情報そのものの配置を見直すという思想に基づいています。これにより直感的で整理された体験が可能になります。
Reactなどの既存技術をベースにしているため、WebXRやUnityに詳しくない開発者でも取り組みやすい点も魅力です。スマートグラス向けのブラウザが整えば、WebSpatialのような技術はWebの次の進化として現実味を帯びてくるでしょう。
WWDC 2025:Safariにより空間へ拡張していくWeb

webkit.orgより
WWDC 2025ではAppleがWebに対してどのように向き合うか、明確なメッセージが示されました。Safari 26のアップデートでは、新たに
USDZは2018年に登場したAppleとPixarによる3Dコンテンツ向けのフォーマットで、これまでも「AR Quick Look」を通じて一部のWebやアプリで活用されてきました。今回のアップデートでは、Vision Proを使ってWebページ内でそのまま3Dモデルを表示・操作したり、ページから3Dモデルを取り出してブラウザの外の空間に配置できる体験が実現されています。
さらに、360度映像や空間写真といったイマーシブメディアを<video>要素のまま埋め込み、全画面表示にするだけで没入型の再生が可能になる点も注目されました。追加のAPIやタグは不要で、既存の構造のまま空間的な体験へと移行できる仕組みです。
たとえば、あるWebページに埋め込まれたステレオ180度の映像をVision Proで再生する場合、画面をタップして全画面に切り替えるだけで、映像が周囲に展開されるような体験が生まれます。
visionOSの設計全体から見ても、Safariが担う役割は大きくなっています。これまではアプリ中心だったVision Proでの体験において、Safariが空間Webの入り口として機能し始めている印象を受けました。
加えて、Webページから仮想環境を呼び出す機能も開発者向けに提供され始めました。<link rel="spatial-backdrop">という要素でUSDZ形式の環境を指定すると、ユーザーはWebページを見ながら背景の空間を自由に切り替えることができます。店舗やショールームなどのWeb体験をより立体的に演出する手段として期待できます。
こうした流れは、Webの構造をいきなり変えるのではなく、今ある技術や構成を活かしながら段階的に空間体験へと広げていく、Appleらしいアプローチといえます。開発者にもユーザーにも負担が少ない方法で、新たな可能性が提示されたと感じました。
空間Webをかたちづくる二つのアプローチ
AWE 2025とWWDC 2025を通じて見えてきたのは、Webが空間的な体験へと進化する中で、異なる観点からの二つのアプローチが同時に進みつつあるということです。それぞれが独自に発展しながらも、将来的には融合していく可能性もあると感じています。
一つは、Webサイトの情報構造そのものを空間の中でどう表現・配置するかを考える方向です。たとえばWebSpatialのような取り組みでは、Webページを構成する各要素を空間に最適な形で再配置し、従来のページという枠を超えたUXを生み出そうとしています。空間対応ブラウザであれば立体的に表示され、そうでない場合でも従来通り2Dサイトとして機能するなど、互換性も保たれています。その一方で、平面と空間の両立をどうデザインし、どう実装・運用していくかという点が新たな設計課題になってきます。
もう一つは、既存のWebページやコンテンツをどう空間の中に展開していくかという方向です。Safariを中心としたAppleの取り組みがこの例で、構造や技術スタックはそのままに、段階的に3Dモデルや没入映像、仮想環境などをWebの中に取り入れていきます。従来の開発知識をベースに無理なく広げていけるため、導入のハードルが低いのが特徴です。
この二つの進化の流れはスマートグラスやXRデバイスの進化とも密接に関わっています。たとえばMeta Orionのような高機能なARグラスやAppleが展開するVision Proのようなデバイスが普及すれば、WebSpatialのように構造を空間に最適化する体験も、Safariのように既存のWebコンテンツを空間に展開する体験も、どちらもその真価を発揮できるようになります。どちらのアプローチも視野全体に情報を展開できるようなデバイスとの親和性が高く、高度な表現や複雑なインタラクションを実現するためには不可欠です。
一方で、Ray-Ban MetaのようなAIグラスや、XREALのような軽量の映像表示グラスに代表される、より簡易なデバイスが市場の中心であり続けると、Web体験はスマートフォンでの閲覧が前提となり、空間的なWeb体験は限定的なものになりかねません。簡単な通知や音声フィードバックのみに特化したデバイスで進化が止まってしまえば、ブラウザを通じた豊かな3D体験はユーザーの手元に届きにくくなってしまうでしょう。
AIグラスの普及によって、音声でのやり取りやコンテキストに応じた情報提供といった新しい情報インターフェースも現れてきました。これにより「見る」「触る」だけでなく「話す」「聞く」といった行動がWeb体験の一部となっていく流れも生まれています。視覚中心の空間Webと、音声ベースの対話型インターフェースが並行して進化していくことで、私たちのWebの利用スタイルも今後大きく変わっていくかもしれません。
まとめ
今年のAWE 2025とWWDC 2025では、それぞれが異なる角度から「空間とWebの関係」にアプローチしていました。一つはWebの再構成によってUXそのものを変えていく方向、もう一つは今ある技術を活かしながら空間性を少しずつ取り入れていく現実的な道筋です。
現在のスマートグラス市場を見ると、Ray-Ban MetaのようなAIグラスや、XREALのような軽量ディスプレイ型のグラスが主流です。これらの多くはWebサイトを直接表示するには表示性能が足りず、引き続きスマートフォンとの連携が中心になります。WebSpatialのような空間Web体験がグラス内で実現されるには、まだいくつかの技術的なステップが必要です。
とはいえ、XR全体の動きを見ればWebと空間の融合は確実に進んでいます。現時点ではスマートグラス上での活用に制限があったとしても、VRやMRデバイスではすでに空間的なWeb体験が現実のものとなっており、WebSpatialのような技術も十分に活かせる環境が広がりつつあります。Meta Orionのように本格的なAR体験をめざす開発も始まっていて、AppleもSafariを中心にWeb技術の拡張を続けています。
私たちの身の回りのデバイスが変わる中で、Webの見え方や使い方も変わっていく。その過程において、どんな体験が本当に人にとって心地よく役立つのか、R&Dの立場から引き続き観察と試作を重ねていきたいと思います。
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