XRとAIがWeb体験を変える今こそ見直す「Webデザインの前提」
サービシンクR&Dの藤原です。
Apple Vision ProをはじめとするXRデバイスの登場により、私たちがWebサイトにアクセスする環境も少しずつ変化し始めています。 これまでWebデザインは、PCとスマートフォンという2種類のデバイスを前提に、画面サイズと入力手段の違いを意識して最適化されてきました。
しかしXRでは、視線やジェスチャーなど従来とは異なる操作手段が用いられ、ウィンドウサイズもユーザーの自由に変えられるなど、閲覧環境の常識そのものが変わってきています。 この新しい環境に対して、今のWebサイトは本当に「使いやすい」と言えるのでしょうか?
そこで今後行うユーザビリティ検証に先立ち、現行のWebデザインとXRデバイス上の閲覧体験との間にあるギャップ、そしてAI時代におけるWebサイトの意義について、現時点での問題意識を整理したいと思います。
レスポンシブデザインの限界

これまでのWebサイトは、主にPCとスマートフォンという二大環境を想定して設計されてきました。当初はそれぞれに別のデザインを用意する方法が一般的でしたが、やがて画面の幅に応じて自動的にレイアウトを調整する「レスポンシブデザイン」という考え方が広まり、現在では多くのサイトで採用されています。 たとえば「レスポンシブデザイン」を採用したWebサイトでは、画面幅が一定より狭くなるとスマートフォン表示用のレイアウトに切り替わります。スマートフォンでは指によるタップ操作が中心となるため、ボタンを大きくして複雑なレイアウトを避けた、縦スクロールを前提とした1カラム構成などが主流です。情報の密度も抑えられ、「狭い画面でも見やすく、操作しやすい」ことが重視されてきました。
一方、レスポンシブデザインに基づいた現在の設計にXRデバイスが加わると、これまでの前提が崩れます。ユーザーが空間上にWebページを表示するウィンドウは、自分の好みに応じて自由に拡大・縮小できるため、もはや画面サイズがレイアウトの制約条件ではなくなります。これまでのデバイスとか比べられないほど大きな画面を表示することもできるので、画面が広すぎることで情報の密度が非常に高くなったり視線移動が多くなったりと、ユーザー体験が悪化する可能性すらあるのです。
さらに操作手段も根本的に変わります。マウスや指のようにピンポイントで正確に操作できる手段ではなく、視線、ハンドジェスチャー、コントローラーなど、大まかな操作が前提になります。こうした環境では、細かく密集したUIは誤操作の温床となってしまいます。
この点でよくある誤解が、「ではブラウザのズーム倍率を上げれば解決では?」という考えです。 確かにズームによって文字や画像は大きくなりますが、UI同士の間隔(マージンやパディング)までは広がりません。ボタン同士が詰まりすぎていたり、操作領域が小さすぎて誤操作が起きるなどのUXの問題は解消されないままです。さらに、レイアウト全体が拡大されることで、元のレイアウトのとき以上に上下左右へ大きく視線を動かさなければならないこともあります。 ヘッドセットやスマートグラスを装着している状態では、この視線移動そのものが身体的な負荷になりうるため、従来以上に「操作負荷の低さ」「視認性の最適化」が求められます。
AppleやGoogleが提供するXR向けのUIガイドラインでは、これらの特性をふまえ、「タップ対象は大きく」「要素間には十分な余白をとり」「誤操作を避けるレイアウトを設計する」ことが推奨されています。これまでのレスポンシブデザインは「画面幅が狭くなるほどUIを大きく、シンプルに」という発想でした。対してXRでは、画面が広くなっても、なお「大きく、シンプルに」設計しなければならないのです。つまり、レスポンシブデザインという考え方が、そのままではXRに適応できないという現実が見えてきます。XR時代のWebには、まったく新しい「レスポンシブとは別の設計思想」が求められているのかもしれません。
価値が求められるWebのこれから

Googleより。AIとの対話で情報を表示するスマートグラスのイメージ
近年、生成AIの登場により「ちょっと調べたいだけ」のためにWebサイトにアクセスする機会は明らかに減りつつあります。私自身も、かつては検索していたような軽い調べ物の多くを、今ではAIとの対話で済ませてしまっています。この傾向は今後さらに強まるでしょう。なぜなら、AIアシスタントはPCやスマートフォンのみならず、今後登場するスマートグラス型のXRデバイスにも、標準機能として実装されていくと考えられているからです。物理的なインターフェースを持たないXRデバイスには、高度なAIアシスタントによる操作の補助が必須でしょう。そのため、情報を得るという行為そのものが、WebブラウジングではなくAIとの対話によって完結するスタイルへとシフトしていくのです。
そのうえで、XRの表示形式もまたWebとの関係性を変えていきます。XRデバイスの中には空間上に自由にウィンドウを配置できるものと、視界の前方に情報を固定表示するものとがあります。空間上に自由にウィンドウを配置できるタイプのデバイスであれば、Webページをある程度邪魔にならないように配置することも可能です。しかし、今のARグラスのように視界に直接情報を重ねる形式の場合、Webサイトのようなある程度の面積を前提とした情報メディアは、周囲の現実空間を覆い隠してしまうため、使いどころが限られてきます。特に屋外や移動中といった状況では、視界を妨げるリスクがあり、安全性の面でも問題が生じる可能性があります。
こうした場面では、Webページをそのまま開くよりも、AIによって内容を要約し、必要な情報だけを簡潔に提示する方が、圧倒的に実用的です。つまり、今後はAIとの対話を通じてWebに触れるユーザーが増え、Webページを直接閲覧すること自体が少数派になっていくかもしれません。
では、そのような時代において、ユーザーがあえてWebサイトにアクセスするのはどういった場面でしょうか。たとえば、ファッションやアート、建築、プロダクトデザインのように、視覚的な印象や世界観そのものが体験の価値になる場合があります。また、ユーザーが何かを「する」ために訪れるWebアプリやサービス型のサイトも引き続きアクセスされるでしょう。
つまり今後のWebサイトにとって重要なのは、どこに書いてあってもいい情報を届けることではなく、「そのサイトで体験する意味」を持たせることです。生成AIの普及により、Webは単なる情報取得の場から、価値や印象を伝える体験の場へと、その役割を変えようとしています。これからは、ユーザーに「ここで見たい」「ここで触れたい」と思わせる理由があるWebサイトだけが、選ばれ続けていくのかもしれません。
使いやすさを見直すところから始める
このように、Webのあり方はXRによって操作環境が変わるだけでなく、AIの浸透によって情報アクセスの文脈そのものも変わりつつあります。 だからこそ「最低限快適に使える」ことの重要性は変わりません。特にXRデバイスでは、そもそも使いづらければページを閉じられて終わりです。PCやスマートフォン以上に、ユーザー体験の良し悪しが初期の印象を大きく左右します。
そこで私は、まずAppleやGoogleが提示するXRデザインガイドラインと、現在主流のWebデザインとの間にどの程度のギャップがあるのかを検証していくことにしました。ECサイトやニュースサイト、行政サービスページなどをピックアップし、実際にVision ProなどのXRデバイスで閲覧。操作性や視認性、レイアウトにおける問題点を洗い出し、記事にしたいと思います。そして、Web側がXRにどう対応していくべきか、またXRに最適化された新しいWebデザインとはどのようなものか、今後も模索を続けていきます。
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