AWE Asia 2026 シンガポールで考えたXRのこれから
こんにちは、サービシンクR&Dの藤原です。今回の記事はAWE Asia 2026のレポートです。ここ3ヶ月、毎月海外に飛んでおりまして、今月はシンガポールに行ってきました。AWE(Augmented World Expo)は世界最大のXRのイベントです。AWEは年に3回開催されていて、私は初めて行ったのが昨年6月のアメリカ・ロサンゼルス。その次が12月のベルギー・ブリュッセル。そして今回のシンガポールと、一年間で開催されるAWEをすべて回ったことになります。
全部を見たからこそ、改めて地域ごとに雰囲気や登壇者の視点は違いますがわかります。AWE USAはやはり一番大きな規模のイベントになるので、大手メーカーが考えるプロダクトやサービスの未来に触れることができます。昨年UnitedXRとして生まれ変わったAWE EUでは制度や社会実装の色が濃く出ています。AWE Asiaはプロダクトや具体的なユースケースの話が多かった印象があります。
このイベントで少し肩透かしだったのが開催日数の問題で、イベントは2月2日〜4日の開催と聞いていたのですが、日本を出る少し前になってトラックのスケジュールを見て、実際は少し違うことに気がつきました。初日は夕方にレセプションの時間が設けられていて、入場バッジの発行とドリンクの提供をしているだけでした。アメリカもヨーロッパも3日間フルでスピーカーセッションが設けられていたので同じ流れだと思っていましたが、アジアは1日短くなるほど小規模なのかと少し残念でした。
そうはいってもスピーカーのトラックの中にはいくつか興味深いものもあり、XRを日常に普及させるにはどのような方向で進むべきなのか、改めて考えさせられる場面もありました。今回もいくつか面白かったものをご紹介したいと思います。
"XR Content Experiences: Building Next Level Immersion"
印象的だったものの一つがこのセッションです。VR版YouTubeチームの方たちによる登壇でした。YouTube XRは、もともと360度動画やVRコンテンツを前面に出した取り組みから始まりました。ヘッドセットの中で空間全体をYouTubeの世界として体験する、完全没入型のアプリ設計です。
ところが実際、ユーザーの行動を見ていくと、開発チームの期待とは異なっていたそうです。ユーザーは最初こそ360度動画を試すものの、長時間使うときは結局いつものフラットなスクリーンでYouTubeを見る。解説動画やライブ配信、ショート動画といった2Dコンテンツを、これまでと同じように見るようになる。
そこで彼らが進めたのが、没入型とマルチタスク型の両立でした。空間全体を占有するモードを用意しつつ、現実空間の中にウィンドウとして動画を表示する使い方も強化する。料理をしながら動画を見る。作業をしながら横に置いて流す。そんなライトな使い方も前提にするようにしたそうです。
ここで大切なのが「なんでも3Dにすればいいわけではない」ということです。XRだからといってすべてを立体化せず、2Dのままどう空間に置くか、どの距離で見せるか、どのタイミングでUIを出すかといった設計のほうが重要と言うのです。
字幕の表示位置ひとつとっても、奥行きを誤ると目が疲れますし、360度動画で映像を上下左右に動かすときも、急激に視界が回ると酔いやすい。YouTubeのチームはそうした細かな点を調整しながら、没入と日常的な視聴を滑らかに繋ごうとしていました。
XRらしさを3D表現の多さで測らない。空間での体験をどう組み立てるかを考える。言われてみればすごく基本的なことに思えますが、ここでそれを再確認できたのはとてもよかったです。
"Empower Student Centric Immersive Education"
教育向けのセッションでは、理科の実験をXRで行う取り組みが紹介されていました。シンガポールやマレーシアの学校で、化学や物理、生物の実験をVRで体験できるようにしているという内容です。
化学実験は危険が伴います。薬品の取り扱いを誤れば事故につながる可能性がありますし、設備や材料にもコストがかかります。学校によっては十分な設備を用意できないこともあるでしょう。それが、VRであれば安全な環境で何度でも試せますし、失敗してもリセットしてやり直すことができます。こうした利点は非常にわかりやすいものでした。
実際、学生の理解度や記憶への定着が向上したという話もありました。3Dで立体的に構造を見ることができて、分子の動きを視覚的に確認することもできます。教科書の図だけでは想像しづらい部分が、体験として頭に残るからです。
ここまでの話はとても納得できるのですが、話を聞きながら少し引っかかる部分もありました。実際に薬品を扱うときや、思った通りにいかないときの緊張感。手触り、匂い、音などといったものはVRでは再現しきれません。現実に起こる物理現象をその目で直接見ることや危険を知ること自体も学びの一部ではないかと感じました。
もちろん、すべてを現実でやる必要はありません。危険な実験を無理に行うべきだとも思いません。ただ、VRで完結してしまうと、本物を知らないままになる可能性もある。そのバランスは慎重に考えるべきなのではないかと感じました。
"How XR is shaping the decisions and actions in health and performance"
MITの研究者によるセッションは、スポーツや医療の高パフォーマンス領域でXRをどう使っているかがテーマでした。
紹介されていた例のひとつが、サッカーのゴールキーパーです。ペナルティキックに反応できる時間は約120ミリ秒。ほとんど瞬間的な判断が求められます。
現実の練習では、同じコース、同じフォーム、同じタイミングを正確に何度も再現するのは難しいです。キッカーの動きは毎回微妙に違いますし、特定の動きだけを強調することもできません。そこでVR環境を用意すると、助走のスピードを一定に保ち、軸足の角度を数度ずつ変え、重心移動を少し誇張するといった設定ができます。同じシチュエーションを繰り返し体験しながら、選手はどの情報を手がかりに予測しているのかを鍛えていくことができます。アイトラッキングで視線の動きを確認することもできます。
F1のピットストップも同様です。現在のピットストップは最速で2秒を切ります。わずかな遅れが順位に影響する世界です。しかし実車を使った練習はとても高額で危険も伴います。VRならあるクルーが0.1秒遅れた場合の影響を何度も検証できます。立ち位置を数センチ変えたらどうなるか。動線を変えたらどうなるか。現実では試しづらい改善を安全な環境で繰り返せます。
そしてこのセッションで語られていた中で重要だと感じたのが、ゴールが常に現実にあることです。
VRの中でボールを止められるようになることが目的ではありません。ピット作業が仮想空間で完璧になることが最終目標でもありません。実際の試合、実際のレースで結果を出すための準備としてXRを使っている。
現実では難しいことを再現できるという点では、教育向けの実験セッションと似ている部分もあります。ただ、この方が語るスポーツや医療の文脈では、VRで体験して終わりではない。必ず現実に戻る。そこが決定的に違うと感じました。
XRはどこへ向かうのか
もともと私は、VRとAR・MRはまったく別の方向を向いている技術だと考えていました。
VRは仮想世界に没入するためのもの。視界をすべて覆い、現実から切り離された環境をつくる。だからこそヘッドセットは外界を遮断する構造であるべきで、いくら小型化が進んでも、基本的にはゴーグル型のまま進化していくものだと思っています。現実の景色が常に視界に入ってくるメガネのような設計では、没入の度合いが下がってしまうからです。
一方で、ARやMRは現実世界の上に情報を重ねる技術です。日常生活の中で歩きながら使ったり、スマートフォンの代わりとして常に身につける可能性があるのはこちらだと思っています。今回のAWE Asiaでいくつかのセッションを聞きながら、その考えがより強くなりました。
YouTubeの事例は、必ずしも完全な没入体験が正解ではないことを示していました。教育の事例は、いくらVRが安全で便利であっても、それだけで完結してよいのかという問いを投げかけました。アスリートの事例は、XRを使いながらも、目標は常に現実のパフォーマンスにあることを明確に示していました。
これらを通して感じたのは、XRの価値は現実を置き換えることより、現実世界の体験のクオリティを上げることにあるのではないかということです。
もちろん、完全な仮想体験そのものに価値がある領域もあります。エンターテインメントや芸術表現など、VRでしか成立しない世界もあるでしょう。ただ、日常の延長線上に広がっていくXRを考えたとき、鍵を握るのはやはり現実との接続だと感じました。
シンガポールの街を歩きながら
最後に、イベントの合間でみたシンガポールの思い出もいくつか載せておきます。
AWEの会場は空港から電車で1駅のExpoという場所でしたが、私はそこから電車で30分ほどの距離にあるChinatownに泊まっていました。予定していませんでしたがイベント初日がレセプションしかなくて暇になったので、ホテルの近くに戻り街を散策してみました。

マーライオンはとりあえず見ておきました。あまり期待しないで見た方がいいと言われていたりするので「一応見ておくか」くらいの気持ちでいましたが、いざ目にしてみると思っていたより大きくて迫力がありました。2月ですが向こうは30度近くあるので、口から出た水の飛沫が冷たくて心地よかったです。

それから記憶に残ったのが鉄道です。いたるところで日本みを感じました。というのもシンガポールの鉄道システムの開発に日本企業が関わっているらしく、駅構内の造りや案内板など、見慣れた雰囲気がしてとても快適でした。アメリカやヨーロッパでは行き先の表示を探すのに迷ったりしたので、とても分かりやすくて安心して乗ることができてよかったです。
今回のAWE Asiaは規模こそコンパクトでしたが、その分ユースケースの具体性が際立っていて、考える材料がたくさんありました。次は6月に開催されるAWE USA 2026に参加する予定です。アメリカではまた違った角度からXRの未来が語られるはずです。次回のレポートも、ぜひ楽しみにしていてください。
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