「XR」の関する世界最大のエキスポ「AWE USA2025」視察 Day3 速報サマリー
「XR」世界最大のエキスポ「AWE USA2025」視察 Day3 速報
こんにちは、サービシンクの名村です。
サービシンクでは2024年から「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」の可能性を探るためにR&Dを開始しています。またこれに「AR」「MR」に「VR(仮想現実)」を加えたものの総称として「XR」という言葉があります。
この「XR」の関する世界最大のエキスポ「AWE USA2025」が2025年06月10日 ~ 2025年06月12日、アメリカのロサンゼルスにある「Long Beach Convention Center」で開催されています。(AWE=Augmented World Expo)
この「AWE USA2025」に当社のR&D担当の藤原が視察に行っており、3日目(2025年6月12日:Day3)の会場で当社が視察したもののサマリーをお送りいたします。
サービシンクのAWE USA2025 サマリー記事一覧
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AWE USA2025 開催概要
会期 | 2025年06月10日 ~ 2025年06月12日 |
開催地 | ロングビーチ / 米国 / 北米 |
会場 | Long Beach Convention Center |
出展対象品目 | 空間コンピューティング、クロスリアリティ(XR)、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、AI、バイオインターフェース、ハプティクス、5G、ストリーミング、スタートアップ、投資 |
主催者 | AWE XR, LLC |
業種 | 情報・通信/通信、情報処理、コンピュータ 情報・通信/新聞、放送、映像(映画、フォト) 趣味・教育/玩具、遊戯用具、ゲーム用品 イノベーション・スタートアップ/イノベーション・スタートアップ |
ウェブサイト | https://www.awexr.com/usa-2025 |
PANEL: State of Smart Glasses and What's Around the Corner
約1時間にわたりスマートグラスの現在と今後の展望についてのトークが展開された。
以下要点をまとめたもの。
Meta/Ray-Ban Meta(Kelly)
現在は「AIグラス」に集中。軽量でファッション性も高く、日常生活に自然に溶け込むことを重視。将来的にはディスプレイ搭載型グラスへ移行する予定だが、それは2030年以降を見据えている。デザイン面では「女性向けのスタイルが不足している」というフィードバックもあり、今後の課題。
Lenovo/Motorola(Jason)
エンタープライズ用途に重点。各企業が自社専用AIをスマートグラスに搭載できるように、カスタム学習・セキュアなローカル処理を提供。医療や製造業などでは、「ファッション性よりも機能性・プライバシー」が重視されている。
XREAL(Ralph)
「映像表示グラス(wearable display)」としてポジショニング。XRというよりは、大画面でメディアを見るためのデバイス。実際に、ゲーム、映画、出張時のポータブルディスプレイとして人気。FOV(視野角)を拡大中:初代は30度台→現在は57度。将来的に70度も視野に入れている。AIやAR的機能も追加中だが、主軸は「映画サイズの映像体験」に特化。
業界共通の課題
ディスプレイの重量・熱・視認性などの課題により、「常にかけていられるようなスマートグラス」はまだ難しい。価格が高い、音が小さい、デザインの多様性が不足といったユーザーフィードバックがある。モダナイズと規格統一の必要性を感じつつ、ユーザーにとっては良い選択肢になり得る。
- Appleは自社OS(visionOS)を展開
- MetaはHorizon OSの拡張とAIグラスSDKを推進
- Android XR(Google+Qualcomm連携)が中立的基盤になる可能性あり
今後2年で起きると予想される変化
出荷台数は2倍以上(400万〜1000万台規模)に増加見込み。Best Buyなどの家電量販店での専用棚展開が始まり、商品カテゴリとしての認知が定着。
エコシステム化の進行
グラス同士、スマホ、タブレット、AIスピーカーなどとの連携がシームレスに。
消費者が「これは通知用」「これは映像用」「これは運動用」などと複数ペアのスマートグラスを使い分ける未来が見えてきている。AIとの統合が“必須機能”に変化し、「メガネ=AIとの接点」という概念が一般に定着。
スマートグラスはスマートフォンの代替になるのか
スマートグラスは現時点で「スマホの代替」にはなり得ないという認識が、登壇者3名に共通していました。
MetaのKelly氏は、スマートグラスはスマートフォンを置き換えるものではなく、「生活の中心に入ってくる存在」と述べています。
LenovoのJason氏は、複数デバイスの使い分けが前提であり、「何をスマートグラスにやらせるか」が明確になることで普及が進むとしていました。
XREALのRalph氏は、「私たちの製品はオールデイ・ウェアラブルではない」と明言し、映像視聴に特化したポータブル・ディスプレイとしてスマートフォンと共存する立場を取っています。
これまでに公開されているMetaのOrionプロジェクトの情報からは、スマートグラス単体であらゆることが完結する未来像を感じてました。
しかし今回登壇した各社のスピーカーたちは、共通してスマートグラスを“用途に応じた補完デバイス”として位置づけています。長期的にはスマートグラスがエコシステムの中心になる可能性も語られていたが、それはスマホを不要にするのではなく、スマホとの役割の再構成によって実現されるものだという立場で一致していました。
Expoレポート
Snap
Spectalcesの体験ブースで、前日のキーノートでも紹介されていた「Sightcraft」を実際に試遊。ダーツを投げるようなハンドジェスチャーで魔法の球を飛ばして的を狙いスコアを競うアクションゲーム。特徴的だったのは、複数のプレイヤーがバーチャルな視界を共有できる点で、「一緒に遊んでいる」感覚が強く純粋に楽しい体験だった。
デバイス本体はスマートグラスとしては大きくHMDとしては小さい中間のサイズ。見た目に多少の威圧感があったが、装着時には意外にも軽く感じられ、快適な使用感。一方で視野角はやや狭めで、スマートフォンの画面のような縦長の表示領域だったのが印象的。これはSightcraftアプリ側の仕様か、デバイス側の制約によるものかは不明だが、それによって周囲を見渡して的を探す楽しさが生まれており、もしこれがデバイスの制約だったとしても、それをうまく活かした体験設計になっていたのは素晴らしかった。
TCL
展示されていたのはRayNeo X3 Pro。重量は76gで、それほど重さは感じなかった。このスマートグラスはUnityとAndroidで開発されている。AndroidスマートフォンまたはiOSデバイスとペアリング可能。通信はWi-Fi 6を使用可能。
グラスには4GBのRAMとSnapdragonのセンサーが搭載されている。光学式ウェーブガイド(optical waveguide)による表示技術。視野角は43インチ相当のフルカラー表示。スマートグラスで目の前にあるダンベルの写真を撮り、「このダンベルで何ができる?」と音声で尋ねると、説明がテキストで空間上に表示されるというデモを体験した。
XRAI Glass
リアルタイム翻訳を行うスマートグラスxrai ar2を展示。こちらもウェーブガイド式のディスプレイを両目に搭載しているが、表示は緑一色だった。非常に軽量で、約40g。2025年8月に発売予定。日本語は語順などの関係で翻訳が難しい言語とされていたが、本機は翻訳に対応しているとのこと。翻訳以外にも、同じ言語での音声書き起こし、音声アシスタント機能も持っている。
Mentra
デモ用の展示機はEven Reality製のスマートグラスEven G1。サービシンクでも現在(2025年6月13日時点)で発売されているEven G1は保有をしています。ディスプレイは「緑一色+表示内容はスマートフォン側のアプリで制御」というものですが、「メガネ」としての極めて自然なハードウェアになっており、現時点での「スマートグラス」としての完成度は極めて高い。
2025年9月発売予定の次世代機はディスプレイ非搭載で、カメラとマイクのみを備えた軽量型。スピーカーはあるが画面表示はなし。写真や動画の撮影が可能で、たとえば20秒ごとの定期撮影機能なども搭載予定。
Mentraの主力はスマートグラス向けのWebベースの開発プラットフォーム。
アプリをTypeScriptなどWeb技術で開発できるよう設計されており、Android/iOSの壁を越えて対応可能。
音声認識、翻訳、アシスタント機能、略語をリアルタイムで説明する機能などがある。
Webサイトのような情報コンテンツをスマートグラス上で見れるようにできるか訊いてみた。
スマートグラス上で通常のWebサイトをそのまま表示することは現時点では想定されていない。代わりに、Webサイトのコンテンツを解析してテキストなどの必要情報だけを取り出し、表示するような中間レイヤーを将来的に提供する構想。
つまり、Webページの全文をブラウザ的に表示するのではなく、記事や要点を抽出してスマートグラスに適した形で表示する方向性。
今後、Web制作者がスマートグラス対応の軽量コンテンツを載せるための仕組みを構築できる可能性がある。
PICO
昨日聴いたセッション「Empower Developers - Bring Web and AI to Spatial」でWebSpatialに興味を持ったので話を伺いに行った。
このフレームワークは特定のハードウェアやプラットフォームに依存しない設計。BytedanceのPICOでなくても動作する。開発者向けにはWeb技術(HTML、CSS、JavaScript、Reactなど)を使ってスマートグラスやXR空間向けの体験を構築できるSDKを提供。ChromiumベースのブラウザやSafariで動作する(3D表示には今後リリース予定の専用ブラウザが必要)。将来的にAndroid XRにも対応予定とのこと。
XREAL
メインの展示は2025年7月1日以降に発売されるとされているXREAL One Pro。2026年発売とされているAndroid XR対応のProject Auraの展示は見られなかった。Googleとのコラボレーションによる製品で、開発者向けSDKも提供予定。
XREAL北米GMのRalph氏に質問してみた。
Q.XREALとGoogleの次のスマートグラスは、VRヘッドセットのようにリッチなアプリを動かすためのものではなく、通知や地図のような簡単な情報しか表示されないように見える。
では、ブラウジングや複雑な操作はスマートフォンで行うことを前提としているのか?それとも今公開されているモデルはまだ開発の初期段階で、最終的にはスマホがなくてもスマートグラス単体であらゆることをできるようにするのが目標なのか?
A.スマートフォンは今後もARグラス体験の中心的な一部として残る。
グラス単体でリッチなアプリ体験を行うことは、少なくとも当面の間(数世代)非現実的。
理由として、処理能力・バッテリー・コンテンツ容量・演算処理などがすべてスマホに依存している。今後登場するProject Auraのスマートグラスもスマートフォンとペアでの利用を前提とした設計になる見込み。
一方で、ARグラス自身も大規模でリッチなビジュアル体験を提供できるようになるが、VRヘッドセットと完全に同等にはならない。
結論として、「スマートフォンの代替としてグラスだけで完結する未来」は、現時点ではまだ目指していない段階。
Day1〜Day3を通した感想
今回のセッションを通じて、スマートグラスがいよいよ日常生活に取り入れられるレベルに近づいていることを実感しました。とはいえ、登壇者たちは共通して「スマートグラスがスマートフォンの代わりになるわけではない」と語られていました。
今のところは、通知を見たり、翻訳を聞いたり、映像を楽しんだりといった用途ごとの補助的な役割に特化していて、スマホや他の機器と一緒に使う前提になっています。将来的にスマートグラスが生活の中心になる可能性も語られていたが、それはスマートフォンが不要になるという意味ではなく、役割の分担が変わっていくという話でした。
また印象的だったのは、世界ではスマートグラスがすでに1年で200万台以上売れているという事実です。その一方で、まだ日本ではスマートグラス着けている人をほとんど見かけません。
やはり、業界をリードしている海外メーカーにとって、日本語における文字起こしや自然な音声対話が難しいことが大きな壁になっているのではないかと感じます。
とはいえ、展示会では日本語対応のリアルタイム翻訳を実現している製品もあり、国内でも使える未来に向けた希望は十分に感じられました。
現時点では、スマートグラスは「スマホの次」というよりも「スマホのとなりに並ぶ、もうひとつのデバイス」として進化しているように見えました。これはサービシンクR&Dチームとして同意見です。代表の名村がブログ記事「サービシンクの考える「スマートフォンの終焉と次のデジタル体験」の未来予測」で語っていたのはハードウェアとしてのスマートフォンの終焉ではく、スマートフォンという画面サイズからの脱却であり、当面は通信手段、画像や情報処理などはスマートフォン側で処理を担う想定です。
ただし今後、Metaの「Orion」やAppleのスマートグラスがどのような形で登場するかによって、この構図が大きく変わる可能性もあります。今後の展開を注視していきたいと思います。
以上、Day3のサマリーでした
初日、2日目に引き続き、サービシンクのR&D領域における「AR/MR✕Web」という視点での視察となってきました。サービシンクでは2018年から「スマホの次はスマートグラスになる」ということを標榜してきました。今回の視察内容ではそれが実現しつつあるのを強烈に感じる内容になっていました。
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サービシンクでは今回の「AWE USA2025」には開催期間全て滞在して視察をしてきました。今後もR&D領域における「AR/MR✕Web」という視点の情報発信を続けていきたいと思います。
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